クサガメの外来種説とその取扱いの現状

クサガメとは?


クサガメ Mauremys reevesii は中国, 韓国及び日本に分布する淡水性カメ類です. 日本在来のニホンイシガメと同じMauremys属に分類されます. 本種は流れの緩やかな河川や溜池などの止水環境を好む傾向にあり(Lovich et al 2013), 日本では主に平野部に生息しています (e.g. 加賀山他 2017).

 

これまでの長い間, 日本に生息するクサガメは在来種であると考えられてきましたが, 化石の発掘状況, 過去の分布記録, 遺伝的な特徴及び近年における個体群動態の傾向などの様々な視点から外来種である可能性が非常に高いことが分かってきました.

クサガメの外来種説


近年, 日本に生息するクサガメ集団は韓国及び中国からの移入が起源であると考えられるようになりました. まず, 化石記録が無いことや幕末から明治初めの分布記録が西日本に限られることなどが挙げられます. 疋田・鈴木(2010)は上記に示した背景及び江戸本草書に基づき, クサガメは江戸時代後期18世紀末に朝鮮半島から移入された可能性が高いと結論付けています.

 

遺伝子解析を用いたアプローチからもクサガメの外来起源説を支持する結果が得られています(Suzuki et al 2011). Suzuki et al (2011) により, 日本に生息するクサガメは遺伝的には大きく3つのグループに分類できるが, それぞれ中国及び韓国のものと遺伝的にほぼ一致することが示されています.

 

一方で, 上記先行研究の問題点として, 日本以外の地域におけるクサガメのサンプル数が非常に少ないことが指摘されてきました (矢部 2014). この点に関しては, 中国と韓国のサンプルをメインに東アジア全体における本種の遺伝構造を明らかにしたOh et al (2017) による遺伝解析が行われましたが, この研究からもクサガメの日本集団の在来性を支持する結果は得られていません.

 

先行研究より, 日本に生息するクサガメ集団の起源は江戸時代後期18世紀末に朝鮮半島から移入された可能性が非常に高いと考えられます (疋田・鈴木 2010; Suzuki et al 2011). また, 日本に定着している中国系統の個体群は, 1970年代にペット用の商業利用のために輸入されたものが日本各地に広がったと推測されています (Suzuki et al 2011; 青木 2014).

 

しかしながら, 西日本に生息する遺伝的には韓国由来と考えられているグループに関しては, 未だにその外来性に関する研究者間のコンセンサスが得られていません. また, 西日本の某所に生息するクサガメ集団は在来なのではないかとの考えも残されています (引用). そのため, 遺伝的に中国系統と考えられる集団の外来性に関する研究者間のコンセンサスは得られているものの, 西日本集団の外来性に関してはコンセンサスが得られていないため, 日本に生息するクサガメ集団の全てまたは一部が外来種となるべきなのかに関する判断はなされていません.

 

現状として, クサガメは種として外来種にはなっていませんが, 国内には外来起源であるとされる中国系統の個体群が生息していることも事実です(Suzuki et al 2011). にもかかわらず, 韓国及び中国の個体群は亜種レベルで分割されているわけではなく単一の同一種となっているため, 明らかに外来起源と考えて問題ないと思われる中国由来のクサガメを対象にした防除対策も一部の地域を除いて全く進んでいません.

 

日本固有種であるニホンイシガメとの交雑を介した遺伝子浸透の現状が明らかにされているにもかかわらず (e.g. Suzuki et al 2014).

防除対策とその取り扱いの現状


先行研究より, クサガメが遺伝子浸透を通して日本固有種であるニホンイシガメに負の影響を与えていることが明らかにされていますが, ニホンイシガメの保全を目的としたクサガメの防除対策は全くと言っていいほど進んでいません.

 

千葉県に生息する特定のニホンイシガメの局所個体群を対象に, クサガメによる遺伝子浸透が進行することに対処するための対策が進められていますが (e.g. 小賀野他 2015; 加賀山他 未発表), これらの地域を除いてニホンイシガメの保全を目的としたクサガメ対策を行っている地域は全く知られていません.

 

このように, 外来種クサガメを対象とした防除対策が進まない理由として, クサガメを外来種として判断するには情報が少ないため, 外来種に含めるべきではないとの指摘から, クサガメの取り扱いに関する研究者間のコンセンサスが得られていないことが大きな問題となっています. また, 依然としてクサガメがニホンイシガメの分布や個体群動態に与える影響に関する知見が不足していることも, ニホンイシガメの保全を目的としたクサガメの防除対策が進まない理由として挙げられます.

 

 

 

(2019/10/11 一部文章を修正しました. 読みにくかったので)

引用文献


  • 疋田努・鈴木大. 2010. 江戸本草書から推定される日本産クサガメの移入. 爬虫両棲類学会報 2010(1) : 41-46.
  • 加賀山翔一・小賀野大一・長谷川雅美. 2017. 千葉県における淡水性カメ類の垂直分布. 爬虫両棲類学会報 2017(2) : 156-161.
  • Lovich, J. E., Yasukawa, Y., & Ota, H. 2011. Mauremys reevesii (Gray 1831)–Reeves’ turtle, Chinese three-keeled pond turtle. Chelonian Res Monogr 5 : 050-1.
  • 小賀野大一・尾崎真澄・小菅康弘・近藤めぐみ・西堀智子・松本健二・長谷川雅美. 2015. 千葉県ニホンイシガメ保護対策協議会の設立とその活動 (特集 日本における淡水カメ類の保全と管理). 爬虫両棲類学会報 2015(2): 174-183.
  • Oh, H. S., Park, S. M., & Han, S. H. 2017. Mitochondrial haplotype distribution and phylogenetic relationship of an endangered species Reeve's turtle (Mauremys reevesii) in East Asia. Journal of Asia-Pacific Biodiversity 10(1) : 27-31.
  • Suzuki, D., Ota, H., Oh, H. S., & Hikida, T. 2011. Origin of Japanese populations of Reeves' pond turtle, Mauremys reevesii (Reptilia: Geoemydidae), as inferred by a molecular approach. Chelonian Conservation and Biology 10(2) : 237-249.
  • Suzuki, D., Yabe, T., & Hikida, T. 2014. Hybridization between Mauremys japonica and Mauremys reevesii inferred by nuclear and mitochondrial DNA analyses. Journal of Herpetology 48(4) : 445-454.
  • 矢部隆. 2014. 日本自然保護協会資料集第53号 「自然しらべ2013 日本のカメさがし!」報告書. 日本自然保護協会, 東京.